私は楽して儲けているのかな、#1

2009.6.8

 

 

「勤務医は忙しく超過労で給料が安いから,楽して儲けている開業医の診療報酬を減らして病院にまわす」

という議論が巻き起こっています.財政制度等審議会が09年6月に建議をまとめたと報道されました.

 

率直に「イヤな感じ」と思いました.

 

まず,「他人の収入を下げようと誰かが言い出したら,反対するのは言われた当人だけである」であります.

 

普通は,そんな他人の足を引っ張る蛮勇を諌める理性が働くものだと思われますが.

審議会の委員長が東芝の会長さんで超リッチ(?)な方にそんな事を言われるとますますなんだかなぁ,なのです.2000億がうんぬんなら日本を代表する100社で10億円ずつくらい出せば?.なんて.

 

当然,日本医師会は早速反対の声明を出しましたが,世間的には反目を買う以上のものにはなっていないようです.「既得権益を守るだけの圧力団体」め,と...

 

でも,日本医師会の言っていることはそんなにズレてはいないと思うのです.

 

5年前に公立病院の勤務医から転身した40代後半の一開業医のアタマの中を覗いて見てください.

 

        #1 開業医は楽しているのか

        #2 開業医は儲けすぎているのか ~そもそも医者は高給なのか

        #3 医者を目指す子供は日本に育つか

 

 

 

#1 開業医は楽なのか

 

09年6月4日の毎日新聞には「大学病院産科医在院月312時間.過労死基準越える」の見出しで記事が掲載されました.

日本産科婦人科学会の調査で,こんなにも働かざるを得ない!,ことが判明した,というものです.

 

私はどれだけ働いているだろう,と気になり,ざっと計算してみました.

 

月火水金は8時30分出勤で9時から12時30分まで診察.昼食も早々に往診にでかけます.

毎日2~5人ほどの家をまわりクリニックにもどるのは4時頃.往診分のカルテの整理などしているうちに5時から7時まで診療.終了後は診療中に電子カルテに入力しきれなかった診療内容や紹介元からもらった情報やデータの入力,会計処理,明日の往診の準備などなどで,クリニックを出るのはいつも8時30分から9時頃になります.

木曜と土曜は午後診はありませんが,木曜は毎週すこし遠い往診があって診察が終わるのが14時30分ころ,帰宅は15時ころ.土曜はなにもなければ13時にはクリニックをでますが,月に一度往診があって診療終了が14時30分頃.

以上が私の毎日です.

 

午後診のある日が12時間から12時間30分の在院.木曜が6時間,土曜が月一回6時間,それ以外は4時間30分.

6月一ヶ月で計算してみると平日を12時間としても259.5時間になりそうです.

もちろん,この文章を書いている時間はカウントの外です.

 

 

新聞によると,産科の先生方の勤務時間は当直のある一般病院では平均295時間+オンコール待機平均88時間.当直のない病院では平均255時間+オンコール待機平均166時間だったそうです.

 

私のクリニックは「在宅療養支援診療所」ですので,定期往診の方は原則365日24時間オンコールです.私は医師一人でやっておりますのでオンコールの対応はすべて私が行います.つまり一日24時間から診療所にいる時間を引いた分,一ヶ月で460.5時間はすべてオンコール時間ということになります.

 

かなりいい勝負で私も過労死予備軍であることがわかります.でも,私は個人事業主だから過労死しても労災は認められないですね.

有給もありません,病休もありません.休めば収入は減りますが支払いは減りません.余分ですがもちろん退職金もありません.うーん,そう思うと独立したのは良い選択ではなかったかもしれません.

 

 

「みんな結構働いているのに産科医だけしんどいしんどいと言うな!」という論調をはるつもりは全くありません.産科医もしんどい,外科医もしんどい,でも開業医だって楽してる訳じゃない,思うのです.

 

 

開業医は落ち着いている時だけ患者を診て悪くなったら病院に押し付ける,とご立腹の勤務医の先生がありますが,これは言いがかりに近いです.だって,いかに悪くならないようにふだんの管理をおこなうか,が診療所の役割なのですから...それでも悪くなった時には病院に(おそるおそる?)お願いをするしかありません.

そのかわり,病院で積極的治療の対応不可能になった方の在宅療養,場合によっては最期の看取りまで私たちが診る機会が増えてきています.

「日本の医療は病院だけで必要十分だろう」と堂々と発言される先生もあります.自分自身を振り返って見てもそう感じるのはやむを得ない部分もありますが,それはちと世間が狭いと今では思えます.

 

開業医には勤務医の時代には知らなかったさまざまな職務もあります.

私は介護保険の認定審査会の委員を仰せつかっておりますが,ほかにも校医,たとえば結核など保健所関連の審査会,地域の講習会,医療相談,健診,予防注射,休日診療所などなど,地域医療や保健行政に欠かせない役割がたくさんあります.

 

そのあたりのことはなかなか病院に勤めているときには気づかなかったことです.

 

 

・・・開業医はラクなのか?

 

結論としては...

少なくとも私自身に関しては勤務医時代よりも今の方が純粋に医学的に多忙.

プラス個人事業主として経営の様々な手続きやらなんやらがありさらにストレスフル.

でも,勤務医時代の委員会やら会議やら後進の指導やらの雑務(失礼)がない分と,しんどくても自分の城という喜びとを差し引いて今の自分の立場で満足,というところです.

 

 

長くなってしまったので,#2以降は別項にします.

【#2を読む】

 

 

 

 

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