私は楽して儲けているのかな #2

2009.6.10

 

 

【まず#1を読む】

 

 

#2 開業医は儲け過ぎているのか

 

 

私は自分の労働に対して過大に収入を得ている自覚はありません.

勤務医時代は,もう少しもらえても罰は当たらないよなぁ,と思っていました.

 

 

さて,開業医は儲け過ぎているのでしょうか.

 

開業医にもいろいろな言い分があります.

 

「開業医はみんな,元・勤務医なんだ...」

俺たちだって安月給で働いてきたんだぜぇ...ちょっと説得力に欠けます.

 

「開業の時のローンだって一杯かかえてるのに...」

開業時のローンで使ったお金は必要経費として収入からひいて計算するわけですので,これは言い訳になりにくい,です.

 

「開業医の年齢層見てみろよ...」

これはかなり説得力がありそうです.私なんてまだまだまったくの若造なんですから.

余裕で平均60オーバーの年齢をマッチさせると勤務医では院長副院長部長クラスになり,収入もいい勝負になりそうです.

 

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医者の世界だけではないとは思いますが,20余年前の研修時代,病院にどれだけ長くいるかが競争のような時代がありました.私たちの給料を時給になおすと300円前後になってしまって研修医仲間で情けなくも笑ってしまったことを思い出します.

そのころは私立の大学病院では一ヶ月びっしり働いて数万円の給与(お小遣い?)が常識と聞いていましたのでそれでもまだましな方だったかもしれません.まるで貧乏自慢です.

 

なが~いあいだ私たち医者は「若いころはそんなもんだ」と思って働いてきたのです.

なぜなら,医者の世界は職人の世界でしたので,若いころは修業の時代で,苦労は買ってでもしろ,教えてもらおうと思うな先輩の業を見て盗め,カネのことは言うな,が当然のこととしてまかり通っていたわけです.

 

私は大学入学前に浪人していますので,6年間の大学を終え医者になった時には27歳でした.大学病院研修医,国立病院研修医,公立病院研究生,大学研究生,大学病院非常勤医師と働きました.ずっと「医者」ではありましたが定職に就いているとは言い難く,この間に頂いていた給料は会社勤めをしている他学部の友人たちとは比較にならないものでした.生まれて初めて常勤医師(正社員)になったのは36歳の時です.それから退職まで8年間,国家公務員(途中から独立行政法人職員)として勤務しましたが,最後まで銀行や生保損保,マスコミ関係などの友人の収入を上回ることはなかったと思います.

 

財制審によると,勤務医の平均1400万円に対し開業医はその約2倍,だそうです.「約」2倍というのが実際の数字は1.6倍とかでものすごい四捨五入やん!というのはおいといて,私はその平均にさえ達したことは一度もありませんでした.

 

国立病院の医長という世間的にはそれなりのポジション(?)だったはずなのに,です.

勤務医の平均,というからには卒後数年の20代ぺーぺーの医者も含まれた平均であるはずなのに,です.

 

そう,公的病院の医師の給料は極端に低いのです.

勤務医の平均の1400万円といえば公的病院では院長副院長クラスの給与体系かと思います.

そのうえ,民間病院の先生に許される研修日の他病院での診療が「公務員」だから禁止されています.

 

それこそは,国公立病院の医者が雪崩式にやめていく大きな理由のひとつなのではないでしょうか.

 

もう,かつてのように国公立病院勤務がステータスで,研究もできる(させてもらえる)し,キャリアも積めて将来出世できるのだから多少安月給でもがまんがまん,の時代はおわってしまったのです.(実はかつては他病院での当直や外来診療を行えていたため本給は少なくてもなんとかなっていた,それで地域の夜間医療が何とか回っていた,というウィンウィンだった実情もあります)

 

 

そのころからしても「約」2倍の収入はとても達成しておりませんが,開業医になって所得が増えたのはありがたくも事実です.

 

いまの労働時間に対して今の所得,さすがに具体的に書くわけには行きませんが,私はこんなものと満足しています.

 

さて,約300時間の産科の勤務医で年収1500万円としたら時給になおすと4000円強...高いでしょうか,安いでしょうか.

決して安くはないですが.でも高すぎることはない,と思います.

 

人の命を直接に扱うという職務内容.看護師さんその他のパラメディカルにも(ある程度の)指導責任をもつこと,そして最近とみに増えてきた(医師からすると理不尽にも思える)訴訟のリスクなどを考えれば,相当の収入はあってもよい,と思うのです.

 

 

(大量に国費が投入された)メガバンクの部長課長クラスの収入では「もらい過ぎ」でしょうか?

証券会社のトレーダーの半分くらいというのは「高すぎ」でしょうか.

 

 

「オマエ達,そんなに稼いでないじゃん...」

そう言われるかもしれません.

しかし,医者の仕事は本来,早く見つけて早く治すこと,あるいは悪くならないように管理することであり,その結果(長期的には)必ず医療費は少なくなります.

稼ごうと思えば,無駄な検査,無駄な通院.無駄な入院,無駄な治療の一本道しかありません.

 

経営状態に比例した収入,という社会の通念は必ずしも当てはまるものではありませんし,当てはめてはいけないのではないかと思います.

 

 

 

結論...

勤務医の収入を増やさないと日本の医療はごく近い将来崩壊すると思います.

今の勤務医の先生方が辞めていくのみならず,医者になろうという若者がいなくなるからです.

開業医の収入を減らすと日本の医療はその少し先に崩壊すると思います.

医者になろうという若者が本当にいなくなるからです.

 

 

#3に続きます.

【#3を読む】

 

 

 

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